ビデオゲームはずいぶん長い間、あらゆるやり方でリアルを目指しつづけてきた。VRの時代になり、さらに追求は進んでいるが、どのみち本当にリアルなゲームを生み出すことにはリミットがある。リアルに答えはあるだろうか?, 『キングダムカム・デリバランス』(以下、『キングダムカム』)には、ある種の答えがある。中世ボヘミア(現在のチェコの西部・中部地方)を舞台に、辺境の町人であるヘンリーを主人公にした、リアルなゲームプレイのオープンワールドRPGだ。, 『キングダムカム』は、先行の『The Elder Scrolls V: Skyrim』のようなRPGと比べても、煩雑なリアルがたくさん入っている。かつて多くの人が期待し、がっかりしてきた、退屈で面倒なリアルだ。ところが、そんなリアルな中世を生き抜くなかで、プレイヤーに不思議と勇気を与えてくれる体験に変わる。, そもそもヘンリーは特別な人間ではない。剣を振る速度は遅く、スタイリッシュさはない。敵を2人も相手にすれば生き残るのは難しい。泥臭く殴り合ったり、斬りあったりする。食事や睡眠を必ずとらなくてはならず、ほうっておけば目まいを起こす。風呂に入らないと街の人に文句を言われる。剣に付いた血は、研いで落とさなければいい目では見られない。, リアルとは“一回の選択肢の重要さ”がなにより大きいものだ。だから『キングダムカム』ではセーブに制限が掛けられている。オートセーブこそあるものの、自由にセーブをするにもアイテムが必要なのだ。重要な戦闘や選択肢のやりなおしを簡単にさせない意図があるのはわかるが、面倒である。, 他のオープンワールドRPGと比べれば、こんなふうにプレイアビリティを悪くするリアルさがいくつもある。序盤のゲームプレイは、IGNスコアで言えば6点くらいの印象だ。, だが煩雑なリアルさは、おそらく開発側の目論みどおりだ。中世ボヘミアを完全に再現するスタンスは、見てくれはリアルな「The Elder Scrolls」シリーズのような、中世をリファレンスするファンタジーに対しての「現実はこうなんだ」ってカウンターでもある。, 現実には、わかりやすい英雄なんていない。このリアルさは、プレイヤーに中世ボヘミアの世界を体験させるとともに、ヘンリーを英雄でもなんでもない男と感じさせることでもある。, ゲームプレイを重ねていくうちに、中世ボヘミアを理解するとともに、ヘンリーが凡庸ながらも、生き抜いていくことに感情移入していくことに気づくはずだ。それが『キングダムカム』の大事なところだ。, 凡庸な青年に感情移入することが、どうして大事なのだろうか? リアルでは大抵の人間が凡庸だからである。それが中世ボヘミアを身近に感じさせるとともに、凡庸な一般人が動乱の時代を生き抜くドラマに繋がるのだ。, ヘンリーはボヘミアの辺境にある、スカリッツの町に暮らす青年だった。鍛冶屋の息子として過ごしており、仲間たちと外国から来た男を巡って悪戯したりして過ごしていた。そのときは、時代が揺れ動いていることも知る由もなかった。, スカリッツの町に外国の人間が目立つのは、国の統治が揺れ動く時代だからだった。当時、ボヘミアを統治していたチャールズ4世が崩御し、息子のベンツェスラウス4世が後を引き継いだ時代だった。, しかしベンツェスラウスは統治者としての能力を欠き、ボヘミアは荒れ始める。事態を重く見た王侯貴族たちは、ハンガリーのシギスムント王に問題の解決を持ち込んだ。シギスムント王は承諾するが、大胆な行動を取る。ベンツェスラウスを誘拐し、ボヘミアが混乱に陥る状況を生み出した。その隙に領土の拡大を狙い、大規模な侵略を始めたのだ。, その影響はボヘミアの各所に現れた。スカリッツにもシギスムント軍が襲い掛かり、町中の人間が殺される。そのなかにヘンリーの両親もいた。ヘンリーは何とか生きのびられたものの、家族が大切にしていた剣をシギスムント軍に奪われる。ヘンリーは家族の尊厳である剣を取り戻すため、復讐を誓い、激動の時代へと身を委ねてゆく。, ここまでのドラマティックな流れを、確かな日本語訳と、声優の熱演が支えてくれる。特にヘンリーの声優を担当した水野駿太郎氏の演技が感情移入を促してくれる。「誰でもない一般人」が激動の時代にいるかような、フラットで不安げなテンションを保っているからだ。, 日本語フォントのチョイスも見事である。会話の字幕・メニュー画面、UIそれぞれに適したスマートなフォントが選ばれている。やはり膨大な文章量やボイスの量のため、一部にミスがある。しかし違和感のないリーダビリティはもちろん、文字の見た目や、声の演技と総合的にこだわっており、DMM GAMESがここまでクオリティの高いローカライズを実現したことは一見に値するだろう。, 復讐を誓ったものの、ヘンリーは特別な力もない人間だ。秘められし力に目覚め……なんてヒロイックな展開はない。生きのびたラッタイの街でできることと言えば、盗みや狩りでわずかなお金を稼ぎつつ、軍隊から仕事を貰うことだった。, ヘンリーは戦闘だけではなく、盗みや会話など、さまざまなスキルを磨いてゆくことになる。TRPGをベースにした、各スキルレベルから行動の成否が判定されるルールを持っており、剣術からスリ、話術それぞれにスキルレベルがある。プレイヤーのスタイルに合わせて、好きなようにスキルを身に着けて進められる。, オープンワールドRPGで「プレイヤーが好きなように生きていくことができる。善人にも悪人にもなれる」特徴はもはや珍しくなくなったが、『キングダムカム』ではヘンリーを「プレイヤーが好きなように」ゲームプレイする意味が少し違う。, それは一からキャラクターメイクする形ではなく、固定の主人公の物語を体験するせいもあるが、なによりあらゆる行動がグレーゾーンに置かれているのだ。たとえば『キングダムカム』には善悪のメーターがない。『Fallout 4』や『レッド・デッド・リデンプション2』のような、「今、善人か悪人か」を判断するステータスがないのだ。, リアルとは、善悪がくっきりとわかれてはいない。グレーなものである。あるクエストである選択や行動をしたとして、他のタイトルならば善悪に影響がある反応がサウンドなりで現れるところ、『キングダムカム』に限っては常に曖昧である(善悪にあたる選択で増減するのは、各地にある町ごとの評判しかない、という身もふたもないところがグレーさに拍車をかけているだろう)。, それどころか、さまざまなクエストの成功や失敗さえもグレーなところがある。序盤から終盤にかけて、ほとんどのクエストは攻略がひとつではなく、複数の解決方法が存在している。しかもそのなかには(メインクエストの重要なもの以外では)クエストをほとんど失敗していても、ひとつの結果として先へ進めることができるのだ。, これが自由なセーブが限定されるデザインとも相まって、『キングダムカム』では善悪も、物事の明確な成否さえも、どこか曖昧なまま先へ進んでいく。「なにが正しいのか?」という問いは、リアルではすぐには判断は付かない。清濁を併せ持ったゲームプレイは、ある種現実そのものの感覚に近い。とはいえ、ここまでゲームプレイに慣れてきても、常に食事や睡眠を管理しなくてはならないのはわずらわしいのだが。, このように、ビデオゲームの中でも泥臭く、座りの悪いリアルでまとめられている。正直なところ、好き嫌いは分かれる(それこそあなたにとってリアルそのものへの評価のように)。煩雑なリアルも、物事が曖昧であるリアルも、フィクションで描かれるときはシニカルであったり、冷ややかであったりするものだ。, しかし『キングダムカム』では、むしろ泥臭いリアルのなかから、ヘンリーが取り戻そうとする敬意そのものをメインストーリーに据えている。家族の剣は伝説の剣でもなんでもない。剣を取り戻すことは、ヘンリーが自らの敬意を取り戻すことそのものである。, 残念ながら、メインシナリオ終盤ではヘンリーにまつわるご都合の展開と、その後の消化不良が完成度を落とすものの、トータルの体験では「一般人が、ゆっくりとリアルな世界を生き抜くなかで、自らの敬意を取り戻していく」ことを徹底している。それは他のオープンワールドRPGで魔王を倒したり、勇者になることに匹敵して描かれ、リアルなゲームプレイを通して、敬意を取り戻すことを身近なものと感じさせてくれる。, 『キングダムカム』は大規模なオープンワールドで、虚飾もない。泥臭いリアルを生き抜き、(どんな方法であったとしても)自らの敬意を取り戻していく体験である。それは私たちにとっても身近に感じられるものだろう。それがビデオゲームがリアルを目指した先にある、プレイヤーに不思議な勇気をくれる、ある種の答えである。, 序盤こそ煩雑なリアルさにうんざりさせられるが、戦乱の時代を生き抜くドラマと、非常に高品質なローカライズによって、ゲームプレイに慣れていくことが主人公ヘンリーへの感情移入に重なってゆく。リアルとは、物事の善悪や可否がはっきりしたものではなくグレーであるし、取り返しがつかないことがあってももう少し生きていけるし、もしかしたら、身近な何かが、生きていくのに大事な物語になることを感じさせる。プレイヤーに不思議な勇気を与えてくれるRPGだ。, プレイしにくさを覚えるほどのリアルさをもつ一方、一般人の主人公ヘンリーを身近に感じさせるさまざまな仕掛けが施されている。オープンワールドを生き抜くうちに、だんだんと“不思議な勇気”をプレイヤーに感じさせるRPGだ。, 「写本」では、中世ボヘミアのさまざまな情報がまとめられている。これらも丁寧に日本語化。, リアルな中世オープンワールドRPG『キングダムカム・デリバランス』がEpic Gamesストアで無料配布!, 究極のリアル!中世オープンワールドゲーム『キングダムカム・デリバランス』はなぜ面白いのか?, 来週の注目作は『キングダムカム・デリバランス』 リアルでファンタジー要素のない中世オープンワールドRPG.

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